ママの手料理 Ⅲ
実質この喧嘩に勝利した琥珀は、そんな仁さんを冷ややかな目で見据えて鼻で笑っていた。



「…全く、2人とも何してくれてるの…。ごめん紫苑、仁を部屋に連れて行ってくれる?それで、仁が落ち着くまで一緒に居てくれたら助かるよ」


しばらくして、私は湊さんの疲れた様な声で我に返った。


湊さんは、その流れで琥珀に


「もう仁にああいう事は言わないで。アメリカにいる間は喧嘩ふっかけるのも禁止ね」


と真剣な顔で話していて、大也はその隣で俯いて大きくため息をついている。


どう考えてもこの状況で仁さんの面倒を見れるのは私しかいない、と理解した私は、


「は、はい…」


と呟き、小刻みに震える仁さんの腕を取って立ち上がらせ、部屋に向かった。



仁さんの歩幅に合わせ、ゆっくりと進む。


あまりに彼の身体が震えていて、ホテル内の通路も1歩ずつしか進めなかった。


しゃくりあげ、未だに涙を流している彼に寄り添うようにしながら、私は部屋を開けて大きなベッドに仁さんを座らせた。


ずっと両手を握り締めながら目をつぶって震えている仁さんの隣に、そっと腰を下ろす。


「…仁さん、も、色々大変だったんですね…」


さっき大也も泣いていたけれど、それとは比べものにならない彼の涙の量は何を意味するのだろう。
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