没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
蒸らし時間が少々長かったかと思って問いかけたら、我に返ったような彼が「いや」と否定する。

「紅茶は美味しいよ。オデットは淹れるのが上手だ。考えていたのはそれじゃなく――」

ジェラールが言うには、独身の騎士は城内の寄宿舎で寝起きする決まりだが、妻子がいる者は城下に住まうことを許可しているという。

ダニエルの説明とは違うようで、「えっ」と呟いたオデットはルネを見た。

「ダニエルは騎士を退役するまで寄宿舎暮らしって言ってたわよ。ジェイさんの情報が間違っているんじゃない? どこからの情報?」

ダニエルは騎士になって六年経つそうで彼が言うなら間違いないとルネは主張するが、王太子のジェラールが王城騎士の規則を知らないはずはない。

「でもジェイさんはおうた――」

うっかりジェラールの素性を漏らしそうになったら、素早くジェラールの腕が伸びてオデットの口を塞いだ。

同時にもう一方の手で引き寄せられ、彼の膝の上で横座りの格好になる。

(殿下の上にのっちゃった。どうしよう!)

「気をつけて」

耳元で囁かれてゾクゾクドキドキするオデットを、ルネが勝気な目を三日月形に細めてからかう。

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