没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
「彼、パン屋は継げないけど婿入りしてくれるんだ。私はひとり娘だから両親も喜んでる。騎士のお勤めがお休みの日だけうちで過ごすって」

「ひと月に四日程度しか一緒にいられないのは寂しいけど」とルネが付け足した。

オデットもつられて眉尻を下げたが、慰める前にルネは自分で気持ちを立て直す。

「うちの両親に言わせると私はワガママでガサツでうるさいんですって。お淑やかな妻にならないと帰ってこなくなるぞって脅すのよ。だからこれからは立派な王城騎士の夫を、静かに応援できる妻にならなくちゃ」

淑女を目指すと言いつつもガッツポーズで気合いを入れるルネに、オデットはフフと笑う。

「ルネはそのままでいいわよ。きっとダニエルさんもルネの明るくて一緒にいると楽しいところに惹かれたんだと思うの」

「だよね。妻に淑やかさを求めるなら私を選ぶはずないもの。あーよかった。結婚したら性格を変えないといけないかと思って困ってたの。オデットありがとう」

ふたりが笑い合う横では、ジェラールが紅茶のカップを口につけたまま、なにかを逡巡しているように固まっていた。

「ジェイさん、紅茶が渋かったですか?」

< 107 / 316 >

この作品をシェア

pagetop