没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
「たしかにお前には、酒場の路地裏で侮辱されたな」

王城騎士の自分に楯突けば牢に入れると、ブライアンが言っていた覚えがある。

それに対しジェラールが『こっちの台詞だ』と返し、それが実現されようとしていた。

「殿下、お待ちください。ルネは許すと言ってくれましたし、ブライアンさんが捕まったら奥さんとエミーちゃんが……」

おろおろしながら止めようとすればオデットの頭に大きな手がのり、琥珀色の瞳が優しげに細められた。

俺を信じて……そう言われている気がして、オデットは口を閉ざす。

ブライアンに厳しい視線を戻したジェラールは、震える彼に言い放つ。

「被害女性が許しても、俺は王太子としてお前の罪を見逃すつもりはない。よって、ブライアン・ホッジには王城にて騎士見習いに従事することを命じる」

「えっ?」

驚いたのはオデットだけでなく、ホッジ夫妻もである。

「俺がお前を殴った時、尻餅をついただけだったことに感心していたんだ」

酒場の路地裏でオデットの窮地を救うためにジェラールは拳を振るったが、焦りと怒りで手加減できなかったという。

ジェラールは幼い頃から騎士を相手にひと通りの戦闘訓練を積んでおり、並の男性より遥かに強い。

ブライアンが骨折もせず意識も失わずにいられたのは、攻撃回避の素早い反応ができたためで、そこに騎士の素質を見出したそうだ。

「もちろん給金は規定通りに出す。夫人は城医に診察させよう。城内には使用人の子供のための保育所がある。そこに娘を預け、お前は本物の騎士を目指して訓練に励め」

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