没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
「おねえたん、ちゅまんない」

「そ、そうよね。鬼がいないもんね」

今度は追いかけっこ。

居間を出て廊下をバタバタと走り回っていると、ジェラールと両親が出てきた。

玄関ホールでノーマンからマントを渡されているジェラールを見て、オデットは驚いて駆け寄る。

「もうお帰りになるんですか?」

「ああ。元から長居はしないつもりでいたんだ。外に騎士と馬も待たせている。それに用はすんだから」

彼の口の端はニッと挑戦的につり上がり、成果を得られた様子であった。

オデットは期待に目を輝かせ、なにがわかったのかと問いかけたが教えてくれない。

「まだ糸口を見つけただけなんだ。だが、俺の予想が正しければきっと彼だろう。城に戻ってから調べてみるよ」

目を瞬かせたオデットを引き寄せたジェラールが、その額に口づける。

たちまち頬を染めるオデットに、彼はいたずらめかしたように言う。

「公務が詰まっていてよかったな」

「え?」

「もしここに泊まっていけたなら、婚姻の儀を待てずにオデットを俺のものにしたくなる」

(それって、つまり……)

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