没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
遺書を受け取ったジェラールは、テーブルに戻ってオデットにも見えるように中の便箋を広げた。

【親愛なる弟へ】という書き出しで、自分たちの後継争いのせいで貴族たちを二分させてしまい、紛争により国民が不幸になっているとレオポルドは憂いていた。

【私が身を引こうとしても、後押ししてくれた貴族たちがそれを許さぬだろう。それは君とて同じことだ。ならば私という存在をこの世から消そうと思う。君は幼い頃から私より馬術も勉学も優れていた。国を統べるのは君の方がいい。どうか国民に幸せを。そして君自身も幸せでいてほしい。君と双子で生まれた私も幸せ者だ。血を分けた大切な弟の君を心から愛している。今までありがとう】

黙読したオデットの目に涙があふれた。

「レオポルド殿下は、お優しくて、情け深い方だったんですね……」

もし双子ではなく、ひとつでも歳の差があれば、慣例通り兄のレオポルドが王位に就いていただろう。

双子であっても、もし王家ではない家に生まれていたなら、後継争いなど起きずに隣で笑っていられたかもしれない。
そのように嘆くのではなく、レオポルドは自分を幸せ者だと書き残した。

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