没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
かぶりを振るガレが唸るような声を漏らし、急に脱力してうなだれた。

「あなた様の仰る通りでございます。遺書を隠したのはレオポルド様のためではなく、私自身のためでした。情けない……」

ガレは部屋を出ていき、レオポルドの遺書を持ってすぐに戻ってきた。

それは白い封筒に入れられて、封?が押された形跡がある。

中を確かめたくて封を破ってしまったとガレが言った。

「遺書はガブリエル様に宛てられたこの一通だけでございます。レオポルド様の執務室の引き出しに入っておりました。レオポルド様は私に――」

亡くなる前日の就寝前、レオポルドがガレを呼んでこんな指示をしたという。

『明日の朝、執務机の二段目の引き出しを開けて中にある物をガブリエルに渡してほしい。頼んだよ』

レオポルドの亡骸が港の水夫により発見されたのは早朝のこと。

その一報が王城に届いて大混乱に陥る中、ガレは主君の執務室に佇んでいた。

衝撃と悲しみ、悔しさがないまぜになり、血があふれるほどに唇を?みしめたガレは、遺書を上着の内ポケットにしまって持ち去った――それが真相であった。

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