没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
「少しお時間をいただきます。司教もオデットも座ってください」

打って変わって穏やかな物言いをするジェラールに、バロ司教はホッと息をついて冷や汗を拭いながら向かいのソファに腰を下ろした。

ジェラールが隣の座面をトントンと指先で叩くので、オデットはそこに座る。

彼の隣に座るのが、いつの間にか自然に思えるようになった。

ジェラールはオデットに微笑んでから訪問者記録を開き、パラパラとページをめくる。

本当に読めているのかと疑いたくなるほど速いスピードで確認作業を進め、やがてあるページでピタリと手を止めた。

視線だけを動かして、ジェラールがバロ司教を見る。

「二十日前の日付に、ブノワ・カロジオというサインがあります。たしかオリオン大学の教授ですね。過去に一度、引見した覚えがある。この教会の信徒ですか?」

「カロジオ教授ですか。ご自宅が遠いのでうちには通っておりません。その日、カロジオ教授がいらしたのは礼拝ではなく――」

聖女研究のために図書を借りたいとやってきたそうだ。

それならばと五冊すべてを貸して、それは数日で返却された。

「おかしい」

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