没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
三年前まではカルダタンの常連客であったそうだ。

「奥様にぜひお見せした指輪がありまして。こちらにどうぞ」

オデットとジェラールはカウンター内から急いで出た。

入れ替わりにカウンター内に入ったブルノが、高額なジュエリーを保管している金庫を開けている。

ジェラールがさりげなく子爵夫人に背を向けたのは、顔を知られているためだろう。

オデットがお忍び中の彼を心配したら、色気をにじませた瞳でウインクを返された。

女性に対して思わせぶりな仕草をするのは彼にとって日常なのかもしれないが、色恋ごとに不慣れなオデットはいちいち鼓動を高鳴らせてしまう。

(調子がくるって困るわ)

落ち着こうと胸に手をあてたら、後ろから「あの」と控えめな声がかけられた。

それはもうひとりの来店客で、おそらく子爵夫人の買い物に荷物持ちとして同行しているメイドだろう。

若草色のシンプルなワンピース姿で、年齢は三十歳くらいに見える。

下がり眉が大人しそうな印象を与え、胡桃色の髪をひとつに丸めて留めていた。

「銀食器はありますか?」

「はい。こちらです」

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