没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
オデットは横長のガラスのショーケースとその後ろの木製棚にメイドを案内した。

「どのような銀食器をお探しでしょう?」

「あ、いえ、見るだけです。すみません」

「構いませんよ。どうぞごゆっくりご覧ください」

購入しないと言われてもオデットはがっかりしない。

店の銀食器たちもきっと使われずに展示されているだけなのは退屈だろうから、どうぞゆっくり見てあげてという気持ちでいた。

カウンターではブルノが早くも商談をまとめた様子。

「本当に素敵。アンティークには新品に出せない味わいがあるでしょ。だから好きなのよ」

「同感です。奥様のような方にご購入いただけてその指輪も喜んでいることでしょう。このままつけていかれますか?」

「ええ。そうするわ」

右手の人差し指にはめられたルビーの指輪をかざした子爵夫人は、その濃い赤味にうっとりしている。

それからメイドを探して振り向いた。

「シュルビア」

「はい、奥様」

「あら、あなたも品物を見ていたのね。どれかしら。買ってあげるわよ」

歩み寄りつつ子爵夫人がそう言うと、メイドが慌てたように銀食器のショーケースから離れた。

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