没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
驚いているのはこのスプーンを持ってきた少年だ。

来店時に年齢を尋ねたら、十五歳だと言っていた。

大人でなければ買い取らないという決まりはないが、入手先が気になるところ。

薄汚れた綿のシャツに膝に当て布をしたズボンをはいており、食事に銀のスプーンを使うような家柄の子供ではなさそうだ。

クルミ色の癖毛が可愛らしく盗みを働くような非行少年には見えないけれど、念のためにオデットはやんわりと事情を聞きだそうとする。

「どうしてこれを売ろうと思ったんですか? 話してくれたら、もう少し買い取り額を上げられるかもしれません」

すると少年はムッとした顔をした。

「もしかして疑ってるの? 貧しくても人の物を盗んだりしないよ。このスプーンは僕が捨てられた時に握っていたものなんだ」

(捨て子……なるほど)

オデットはその話を信じた。

ルビーを鑑定しながら感じたのは、『幸せになって』という母親の想いだ。

この国には赤子に裕福な人生をという願いを込めて銀のスプーンを贈る習わしがある。

しかしオデットが読み取ったのは、そういう普通の母の想いより切実な感じのするものだった。

< 43 / 316 >

この作品をシェア

pagetop