没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
出自に関わる大事なスプーンを売ろうとしているのは、初恋相手に誕生日プレゼントを買うためらしい。

真っ赤な顔で打ち明けたアランにつられてオデットまで照れくさくなり、もじもじしてしまう。

(そういう事情なのね。できるだけ高値をつけてあげたいわ)

「まずは綺麗にしましょうか」

オデットはカウンター下の棚からクリーニングに必要な物を取り出し、並べていく。

「錆び落としか」

興味がありそうな顔で横から覗き込むジェラールに、オデットは綿の手袋を脱ぎながら説明する。

「黒ずみ落とし、です。銀は錆びません。この変色は硫化といって硫黄成分に反応して起こるものです。汗や皮脂にも硫黄が含まれているんですよ」

「へぇ」

オデットは重曹にぬるま湯を加えてとろとろにし、銀のスプーンを磨く。

するとたちまち顔がはっきりと映り込むほどピカピカになった。

「磨けばこんなに光るんだ」

アランは感嘆し、ジェラールは「ん?」となにかに気づいたような声をあげた。

変装用の伊達眼鏡を外した彼はオデットの手からスプーンを取り上げると、目を凝らすように顔を近づけた。

< 45 / 316 >

この作品をシェア

pagetop