没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
「あ、ジェイさん。せっかく磨いたんですから手袋をしてください。まだ売買が成立していないのでお客様のものですよ」

「ああ、すまない。だが、それよりここを見てくれ」

ルビーがはめ込まれた柄の先端の裏側に、鷲の紋章が刻まれていた。

「気づきませんでした。なんの意味がある刻印でしょう?」

家紋か製造元のマークか、それともただのデザインか。

宝石知識に長けていても、この世界のアンティーク品に携わってまだ一年ほどなので、オデットにはわからない。

ブルノはあいにく外出中で聞くことができず困ったが、ジェラールが教えてくれる。

「これはグスマン伯爵家の紋章だ」

形のいい唇の端がニッとつり上がり、琥珀色の瞳がキラリと輝く。

「君の母親はグスマン伯爵家に縁の者かもしれないな」

驚きに目を見開いたアランは、直後に首を横に振る。

「こんな僕が貴族だなんてあり得ません」

これまでの使役されてきた人生を思えば、高貴な血筋かもしれないと期待もできないのだろう。

けれどもスプーンの紋章を見つめるアランの頬が次第に緩んでいく。

「でも、もしも、もしも僕が貴族なら、ユリアお嬢様と……」

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