没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
今日の約束を取りつけるにあたっては、かなり大雑把な目的しか伝えていない。

存じませんとの伝言で終わっては困るからとジェラールが言っていた。

「こんにちは。お邪魔します」

ペコリと会釈したオデットに伯爵が興味の薄そうな目を向けた。

ジェラールに対してはにこやかに歓待していたのに、オデットに対しては「ようこそ」とひと言だけである。

普通の貴族令嬢なら気を悪くするところであろうが、のんきなオデットは見下されていることにも気づいていなかった。

通されたのは、中庭のバラが見える広い応接室。

絵画や彫刻が飾られ、花瓶にもバラが生けられていた。

長方形のテーブルを四つのひとり掛けのソファが囲んでいる。

それぞれに腰を下ろしたら、黒服をきっちりと着こなした執事がサービスワゴンを押して入ってきて一礼した。

年齢は五十代半ばくらいだろうか。

お手本のように礼儀正しい仕草だが、なぜか不機嫌そうな顔つきだ。

オデットの貧しい実家にも執事がいる。

満足に給料を払えないというのに、代々仕えているからと義理堅く勤めてくれて、いつもにこやかな中年男性だ。

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