没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
服も顔もすすけたように汚れていて、仕事を抜けてきたため身なりを整える暇がなかったようだ。

執事は一礼してすぐに退出し、ドア口で不安げに突っ立っているアランにジェラールが近づいた。

「大丈夫」と優しい声をかけてその背に手を添える。

「彼の名はアランです」

シュルビアがソファから勢いよく立ち上がった。

会う資格はないと言っていたが、会いたさは募っていたのだろう。

息子を前にして歓喜に破顔しかけたシュルビアだが、その表情が悲痛なものに変わる。

「ああっ……」

アランの身なりを見れば彼が今どんな生活をしているのか、おおよその見当がつく。

モンテス商会経営者宅で養子となり裕福に暮らしているはずだという願いは砕け散り、衝撃を受けているようだ。

ジェラールはアランがどのように生きてきたのかを説明した。

幼い頃から使用人のように働かされて学校にも通えず、今は無給で肉体労働を強いられているということを。

「シュルビアさん、あなたはアランくんの幸せを願って手放したと言っていましたが、残念ながら彼の人生は苦労の連続です」

< 88 / 316 >

この作品をシェア

pagetop