春恋
そして最後に

à mon bien-aimé(愛しい人へ)


きちんと翻訳していたら…
私は後悔とか無縁の人生を歩んできたのに今は一緒に居た5年を悔やむ事しか出来ない。

どれだけ彼に壁を作ってきたんだろう。


「あのキス…」


もしかしたらまだ間に合うかも?
あれ以来彼はお店に来て居ない。
今更私は何て言うつもり?


自問自答を繰り返し眠れない夜を過ごした。




***********************



「睦月さん、今日で最後ですね」


しみじみと閉店後のカウンターを布巾で拭きながら神奈ちゃんがポツリと呟いた。
今日でこの店とも最後。
結局この1週間オーナーとは会えずキスの答えも出せずにいた。


「長かったような短かったような。ふふっ」


あっという間の5年間とまさかの後悔。
胸が痛い。
これからはもう少し頑張って見よう。
諦めるのはすぐ出来る。
次は絶対に…


カランカラン


入口のベルの音に振り返り閉店を口にしようとして思考が止まった。


「はぁ~間に合いました」


1週間振りの息を切らしたオーナーが苦笑いしながら立ってる。


「もう!オーナー遅い!!睦月さんの最終日だったのにー!」


プンプンと怒る神奈ちゃんが可愛くてギュッと抱きしめた。


「ごめん。ちょっと修行してきたんです」


修行の意味が分からず私と神奈ちゃんは首を傾げた。
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