ゆっくり、話そうか。
毒を以て毒を制す、おどろおどろしい表現だが、それがぴったり来る言葉だと思えた。 

「彼氏にして?」

日下部からのお願いは破壊力抜群だった。
こうなればもう、やよいも自分の欲を抑える必要はない。
欲しいと思っていた気持ちが与えられたのだから、後は掴んで離さなければいいだけ。

「大事にするわ」

「男前」

はいと頷くだけだと思ったのに、また一歩先行くかっこよさを発揮されてしまった。

そう。
それくらいの強さがなければ日下部を幸せな気持ちにすることなどできない。
そのための努力は何も惜しまない。
やよいにはそのための準備がもうできていた。

目の前にいる日下部はもう触れてはいけない存在ではない。
瞳の中で追っていたやよいはもう、手を伸ばせばすぐに引き寄せられるところまで来てくれた。
絡まった指が、離れたくなさそうに互いを強く繋ぎ止めている。
日下部の指先が、やよいの頬をくすぐり、唇に降りてきた。

「キスしていい?あの時みたいにしないから」

返事をする前にその場に押し倒され、唇が重なる。
胸が張り裂けそうに膨らんだ。
あの時は切なさと混乱で、違う意味で胸が張り裂けそうだったのに。

< 209 / 210 >

この作品をシェア

pagetop