ゆっくり、話そうか。
「どうやるの?」

「へ?」

「あれ、笛…?」

さっき落としたタンポポの笛を指差して、「教えて」とねだられる。
夜のテンションなのか、日下部の毒気がいつもより少ない感じがした。

「知らんの?」

「知らない。やったこと無いし、汚いから」

「じゃあ今もせんかったらええのに」

ちょくちょくディスリが入って絡みにくい。
なんて男を好きになってしまったのだろうか。
柔らかいと思ったけれど、やっぱり気のせいだった事が悲しい。
残っていたタンポポの茎を半分にして日下部に渡す。
日下部には音の出やすい太い方を譲った。

「これくらいにちぎってちょっと先っぽ噛んで吹くだけ」

残った半分の適当なところをちぎって噛み、息を吹くと、今度はさっきよりも高い音が出た。
茎が細い分ぷゅいぃっという可愛らしい雰囲気になる。

日下部も真似て適度にちぎり、

「っ、うわ、まっず…」

口に含んで思わず吐き出した。

「あ、渋い汁出るよ」

たばこのように口のはしに咥え、「不味いから」とつけ添える。
そしてまたプイィっと吹いた。

「先に言ってよ」

「知ってる思うやん。日下部くん頭えーんやし」

「出ることは知ってるけど、実際ラテックスの味なんか知らないし」

ラテックス?

「この汁の成分。ゴムのラテックスが入ってるから」

やっぱり博識。

今後の勉強の役に立つかどうかは定かじゃないが、苦味がラテックスだと知って自分も少し知識を得た気持ちになった。
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