あの夜を閉じ込めて


「私、結婚がなくなったことを親に言えないどころか、仕事先には寿退社ってことにして辞めたんです。だって、言えるわけないじゃないですか、本当のことなんて。プライドばっかり高くて嫌になっちゃいますよね」

「周りが祝福してくれたから、ガッカリさせたくなかっただけなんじゃないですか?」

「惨めだって思われたくなっただけですよ」

あの人が私を選ばなかった理由は、そこにあるんじゃないかと思う。

つねにネガティブ思考。なのに強がって明るいふりをして、幸せな自分を演じたがる。こんな女と一緒にいても疲れるだけ。きっとあの人にもそう思われていたはずだ。

「だったらそんな指輪、さっさと捨てればいいのに」

長くてまっすぐな冬夜さんの指が、私の左手に添えられた。

「あそこに投げれば、跡形もなく溶けますよ。できないなら、俺がやってあげましょうか?」

耳元で囁かれた声に、背中がゾクッとした。

彼の視線の先には、オレンジ色の海がある。たしかに坩堝の中に投げてしまえば、一瞬で指輪は消える。

そうしたら私の心も灼熱の炎で塞がるんだろうか。

「なんて、お節介すぎますね。すみません。連絡先は電話番号だけでもいいですよ。グラスは取りに来れる時まで保管しておきますから」

彼の指が私の手から離れると、また営業スマイルを向けられた。

もう少し押してくれたら、指輪を捨てることができたかもしれないのに……なんて、思っている自分に呆れた。

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