あの夜を閉じ込めて
末広ガラス工房は、和洋折衷の作りをした建物だった。赤色の屋根と白い壁が可愛くて、外観だけでオシャレな雰囲気を醸し出している。窓際には一輪挿しが飾られてあって、中の様子を窺うことができた。
店内にはグラスや箸置き。風鈴に小鉢やお皿など、たくさんの工芸品が並べられている。一瞬で心を奪われてしまった私は、迷わずに工房の扉を開けた。
……チリン、チリン。
ドアに付けられた鈴が、小鳥のような音を奏でた。
「ごめんください」
店内はとても温かかった。ドアには【open】のプレートがかけられていたから営業中であることは確かだけど、誰もいない。
こんなに不用心でいいんだろうか。おそるおそる奥に目をやると、その先にはまだ部屋が続いていた。
屋根付きの通路を進むと、鉄筋コンクリートの空間が広がっていた。
なにに使うのかわからない大きな器具と、テーブルに出しっぱなしになっている工具。焦げた鉄板。散乱してるバケツ。壁には危険マークのステッカーが貼られた電気ブレーカーがあり、その横では巨大な扇風機が回っている。
目に入るもの全てが初めて見るものばかりだったけれど、一際存在感を放っていたのは、釜の中で燃えているオレンジの明かりだった。
炎と呼ぶよりマグマと表現したほうがいいほど、強烈な光の色だ。
……すごい。これでガラスを溶かすのかしら。
「それ以上近づくと、あんたが溶けるぞ」
「え?」
突然、背後から声がした。慌てて振り向こうとしてバランスを崩しかけたら、強い力で腕を引っ張られた。
「おいおい、怪我でもされたらこっちは死活問題になるから止めてくれ」
……トンと、顔が逞しい胸板に当たった。私は急いで体勢を元に戻して、頭を下げる。
「す、すみません。勝手に入ってしまって……」
「もしかして、お客さん?」
「え、は、はい。末広ガラス工房さんのことをチラシで見て知りました。ガラス作り体験ができると書いてあったので、お伺いしたんですが……」
「チラシ?」
「あ、これです」
カバンからチラシを取り出して見せると、男性は「ああ……」と少しだけ罰が悪そうな声を出した。