あの夜を閉じ込めて
「すみません。このチラシはずいぶん前のものなんですよ。店は営業してるんですけど、ガラス作り体験は休止してまして」
「そう、だったんですね。残念です」
「本当にすみません」
「いえいえ! 私のほうこそご連絡もしないで来てしまってごめんなさい」
今日はとことんツイてない。ううん、結婚がダメになってから良いことがひとつもない。
「もしかして観光でこの街に来たんですか?」
「か、観光というより、寂しいひとり旅でして……」
改めて男性の顔を見た。その整った顔立ちに思わず、ぽかんと口を開けてしまった。
切れ長の目に、綺麗に通った鼻筋。身長は180センチくらいはあるだろうか。スタイルが良くて、おまけに程よい筋肉もついている。
……こんなにハンサムな人は初めて見た。
「ひとり旅ですか。だったらいい思い出を作ったほうがいいですよね。簡単なもので良ければ体験していきますか?」
「え、でも今は休止してるんじゃ……」
「はい。だから特別です」
彼の長い人差し指が内緒のポーズを作った。
〝特別〟なんて言われたら、落ち込んでいる私の心は無条件に躍る。助けてくれた時は少し怖そうな口調だったのに、私がお客だとわかると、とても紳士的に対応してくれた。
「あの……その前にお名前を聞いてもいいでしょうか?」
「末広冬夜と言います」
「冬夜さん。私は上原望美です」
「望美さん。では、始めましょうか?」
男らしさの中に見つけた小さなえくぼ。そのギャップにすっかり胸を打たれてしまった。
私、冬夜さんのことなら推せるかもしれない……。