先輩からの卒業
【奈子side】
「つまり、俺は奈子と別れた後すぐにうちに帰ったんじゃなくて、そこにはタイムラグがあったんだよ」
先輩の話は真っ直ぐ家に帰っていたら事故には遭わなかった。
それから、チョコを渡したのは加恋先輩じゃなくて私だということに気づいた、というもの。
「でも、私が引き留めたのは事実です」
「違う……。俺が奈子と別れたあとすぐに帰ってたらあんなことにはならなかった。電話だって家からでもできたのに、気持ちばっかり急いでたんだ。奈子に好きだって言うために加恋との関係にけじめをつけないとって」
「……え?」
先輩から不意に出た好きという言葉に思わず顔を上げる。
今のは何かの聞き間違いだろうか?
「ずっと好きだった奈子のことが。加恋と付き合う前から」
「な、何言って……。ずっとって先輩は加恋先輩と付き合ってたじゃないですか」
『彼女ができた』そう嬉しそうに話した先輩の表情を今でも忘れはしない。
あの時、私は初めて失恋の苦しさを知った。
「奈子は俺のことを先輩として慕ってくれてるのに、俺はそうじゃないことへの罪悪感。それから、悟はそういうつもりで奈子を紹介したわけじゃないだろうに……と思うと後ろめたさがあったんだよ。そんな時、加恋に告白されて奈子のことを忘れるチャンスだと思ったんだ」