先輩からの卒業
「他にはもう何も望まないから、ずっと隣にいてほしい」
階段に腰掛けながら次の授業までの時間を潰す中、先輩がポツリそうつぶやいた。
「それは私の台詞ですよ。あの……先輩、一つだけ聞いてもいいですか?」
「ん、何?」
「先輩がその……私のことをそんなにも想ってくれていた理由が見つからなくて」
「俺、奈子と一緒にいる空気感が好きだっんだ。どれだけ部活の練習が辛くても、奈子の顔を見ると元気になった……って感じ?」
「あ、ありがとうございます」
先輩からの言葉に思わず顔がほころぶ。
私が満足気にしていると、先輩は話を続けた。
「それから久々に登校した時、少しだけ怖かったんだ。周りは俺のことどう思うだろうって。だけど、教室に足を踏み入れた瞬間、奈子が『先輩!』って声をかけてくれて救われた気分になった。本当は声かけにくかっただろうに勇気を出してくれたんだろうなって思ったら、愛おしくて仕方なかった」
初めて知る先輩の想い。
まだ2月だというのに、先輩の隣はまるで春の日差しを浴びているかのような暖かさだ。
そして、握られた手からは直接先輩の温もりを感じる。