◇水嶺のフィラメント◇
「まあね。世の中ではそれが通説だが、実際には先人の切り開いた道というのがない訳でもないんだよ。但しかなり厳しい越境となるがね。ルーポワの街へ向かう途中、小さな隠し坑道があるらしいんだ。そのトンネルをくぐり抜けると、ルーポワの南東、リムナトとの地を分かつ高い峰の尾根に出る。其処から細い崖路(ほきじ)をひたすら南東へ進めば……いつかナフィルの北部に辿り着けるっていう噂だ」

「あくまでも「噂」だけなんですね……」

 少々こめかみを引きつらせながら、パニは微かに苦笑した。

 それからバケットを食べきった掌に、今度は小さなカップが載せられた。まだ幾分冷たい水が水筒から注がれて、パニは無意識にコクリと一口喉を潤したが、と同時に「あれ?」と思う。

「あ、フォルテさん。ボクの世話なんていいですから、フォルテさんも休んでください」

 目の前でかいがいしく動き回るフォルテに気付いて声を掛ける。


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