◇水嶺のフィラメント◇
「ですが、レインさま? 店主がお客様やらご近所から聞き出した噂話では、「こんな事件ハナから出まかせに決まってる!」って言うじゃあありませんかっ。わたくしめには良く分かりませんが、店主が申しますには「政府のお偉方(えらがた)」の仕業(しわざ)なんだとか!? 誠心誠意務めて参りました我が兵士たちを犯人に仕立てるなんて、わたくしめにはもう、そのお偉方とやらを信じることなど出来ません!!」

「フォルテ……想像で人を悪く言うものじゃないわ」

 割り込みながら徐々に興奮するフォルテを(いさ)めて、アンはレインに詫びを込めた笑みを向けた。

 レインはこちらの味方ではあるが、彼もまたリムナト王家の、ましてや政府の一員なのである。

 けれどフォルテの悪態はレインの何かを変えたようだ。先程とは違って表情を(ゆる)めた其処には、明らかな意思が見える。

「いや……フォルテの言う通りだよ。残念ながら政府上層の画策である可能性は高い。実は一昨日の帰国時から、僕も同行していた従者たちに探らせているのだけど、得た情報もほぼ一緒であるし、僕の見解もその噂話と同じなんだ」

「……それ、では──」

 ──ナフィルの傭兵は、無実である。ということ?

 言葉を途切れさせたまま答えを求めるアンに、レインは正対して「おそらくは」と首肯(しゅこう)した。

 心の底から湧き上がった深い安堵が、長い吐息と共にアンの唇から滑り落ちてゆく。


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