◇水嶺のフィラメント◇
「ありがとう、アンシェルヌ。これからは私も両王家に協力しよう」

 そしてスウルムの呼ぶ自分の名がこれほど心震わせるのは、彼がその名の意味を知るからこそに違いなかった。

 母の愛情が込められた名前は、アンの奥底に刻まれた生まれる前の記憶にまで、強い力をもって浸透した。

「ありがとうございます、叔父さま」

 スウルムが頭を下げた向こう側で、イシュケルも深く腰を折っていた。

「イシュケルも本当にありがとう」



 * * *



「じゃあね、アン! ちゃんと帰ってこなくちゃ承知しないからね!」

「もちろんよ、メティア! ちゃんと(、、、、)待っててちょうだい!」

 白い岸辺で見送るアンに、一行は手を振りながら倒れた鉄格子の上を歩き出した。

 依然立つ格子に挟まれた真中で立ち止まり、全員が水面に額を浸けてレインを偲ぶ。

 やがて彼らの影が向こう岸からも消え去って──

 一人きりとなったアンは、今一度心の中で決意した。



 ──待っててレイン、あたしは貴方を決して独りにはしない──


< 209 / 217 >

この作品をシェア

pagetop