◇水嶺のフィラメント◇
 二人が結ばれたこの時、リムナトの東部と北部の峰に激しく雨が降り注いだ。

 国の東、豪雨は山の(ふもと)を削り、地下パイプ以外の出口を持たない湖に、僅かながら川を作り出し、ナフィルの大地を潤し始めた。

 国の北、豪雨は山の(いただき)を削り、ルーポワの冬に積もった雪を春に解かして湖に運んだ。

 今まで通り西風も湖に雨を落としたので、ナフィルの川が大河となろうとも、リムナトは変わらず水の都として繁栄した。






 そして──麗らかな翌春のはじまり。

 アンの元に、琥珀(アンバー)色の美しい髪を持つ(ブルー)(グリーン)のつぶらな瞳が愛らしい小さな姫君が誕生する。

 まるで聖水の如く泉の水で洗礼を受けた赤子の姫を、レインは「岸辺」で愛おしく抱き上げた。

 泉の中でのみ健やかであったレインの肉体は(よみがえ)り、久方振りの甘い空気を幸福な余韻と共に深く吸い込む。

 神はアンとレインの心からの祈りに応え、ついに二国の行く末を二人に託したのだ。





 ──ありがとう、アン。

 レインは女王となったアンと穏やかな笑みを交わす。

 胸の中ですやすやと眠り出した王女と共に地下洞の出口へ──光り輝く未来の待つナフィルの宮殿へ、二人はゆっくりと歩み始めた。

 後にアンはレインと共に両国を束ね、やがて成人したパニによって更なる繁栄が築き上げられたという。






 そう──命とは神に捧げるものではない。

 命とは愛によって生み出され、愛をもって(はぐく)まれるべきものなのだから──。






      [ FIN ]


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