◇水嶺のフィラメント◇
「アン、一体どうするつもりだい?」

 分かったと同時に報告書を裏返したアンは、その紙面に何やら文字を(つづ)り始めた。

 覗き込んだメティアの瞳には、空き家に集まったメンバーに向けての伝言らしき文章が映り込む。

「メティア、悪いのだけどこれを店内の兵士たちに渡して。彼らに同行して空き家へ向かってちょうだい。フォルテたちを守って、ナフィルへ連れ戻してほしいの。あたしは……王宮へ行くわ」

「ええっ!?」

 一心不乱に書き続けながら、同時に指示されたその内容に、メティアは脳天から大声を上げてしまった。

「んなっ、何をアホなこと言ってんだ! レインはあたいらに頼み込んでまで、あんたを母国に帰したいって思ってるのに……アン自身がそれを(こば)んでどうすんだよっ!?」

 書き上げた内容を今一度黙読する。

 メティアの言い分はもちろん重々承知の上だ。

 レイン自身から言われた台詞(セリフ)反芻(はんすう)しても、彼の希望に反していることは理解している──「ナフィルの民の──「砂の民」のためにも、今は国王代理として国を支えることを優先するんだよ」──あの言葉は、何が遭ったとしても国に帰れというお達しだったに相違ない。

 そう頭では理解出来ているのだ。

 けれど心が納得しない。納得出来ない……アンは胸騒ぎを覚えていた。

 何か……嫌な予感がすると。


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