◇水嶺のフィラメント◇
『気にしなくていいよ。良かったらそれ、ちょっと貸してくれる?』

『あ、うん。はい、どうじょ』

 両手で差し出されたグラスを受け取ったレインは、側面を確認するようにゆっくりとグラスを回転させた。

 すると泉の照り返しが反射して、アンの後ろのずっと向こう、やってきた地下道を明るく照らし出したのだ。

『キミが来たのはあの道だと思うよ。ボクは一緒に行けないけれど、一人でも帰れるかい? キミが見えなくなるまで、このコップで光を当てていてあげるから』

 その言葉を聞いてアンは光の先をジッと見詰めた。更に振り返ってレインの顔をジッと見詰める。

 レインの笑顔はアンに勇気を与えたようだ。ややあって大きく頷く。

 レインも満足したように頷いて、再びニッコリと笑ってみせた。

『それじゃあね、キミ……じゃなくて、アンシェルヌ。みんなからは何て呼ばれているの?』

『アンだよ! みんな、あたちをアンって呼ぶの』

『それじゃあ、ボクもアンって呼んでいい?』

『うん、いいよ! えっと~レイン。……えっと、えっとぉ~』

 「アン」とは父王からも呼ばれる気に入った愛称だが、レインからの呼び掛けにはもっと違うニュアンスが感じられた。

 こそばゆいような、それでいて心弾ませるような……とにかく幸せな予感が溢れてくる。


< 84 / 217 >

この作品をシェア

pagetop