元勇者は彼女を寵愛する
「そして私達は熱いキスを交わして――」
「誰と誰がキスをしたって?」
「はぁぁ!!」

 ヴァイスの声によって、私は三ヶ月前の回想シーンから現実へと引き戻された。

「え、えっとね、私達が恋人になった時の事を思い出してたのよ!あの、初めてキスした時の!」
「へえ?つまり、さっきのキスじゃ満足出来なかったって事かな?じゃあ次する時は心得ておかないとね。今でもいいんだけど」
「え?あ……ああ!!そんなことよりも早く支度しないと!!」

 ヴァイスの瞳が鋭くなったのを見て、私は慌てて残っているスープに手を伸ばした。
 いつもなら流れに身を任せていたかもしれないけど、今日だけは駄目。
 今日は私達がこの島から出る事が許されている特別な日だから。

 私達は三ヶ月に一度だけ、島から出ることを許されている。
 立ち入る事が出来る街は限定されているし、勇者である事はもちろん秘密にしないといけない。
 それでも恋人になって初めての街デートはずっと楽しみにしていた。

「ごちそうさま!片付けは」
「僕がやるよ」

 私が持とうとした皿がフワッと浮かび上がり、ヴァイスの周囲に集まった。
 ヴァイスの体を淡い光が纏っている。それは彼が魔法を使っている時に起きる現象だ。

「リーチェは着替えて出掛ける準備をしておいで」
「う、うん。ありがとう」

 本当に、この男はどこまで私を甘やかせば気が済むのだろうか。
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