つけない嘘
こんな風に誰かに強く抱きしめられるなんていつ以来だろう。

最近全くといっていいほど、充と触れ合うことはなかったから。

充よりもずっと大きくて逞しくて引き締まった体。

亮はどんなキスをするんだろう。そしてどんな風に愛するんだろう。

初めて亮のことを男として意識する。

そして自分が女だと久しぶりに意識した。

「瑞希さんは結婚して今幸せ?」

色んな気持ちが入り混じって、泣きそうになりながら答える。

「幸せ……だよ」

幸せ、だよね?

「……完敗だな」

私を抱きしめる彼の腕が緩んでいく。

今までそこにあった暖かいものが私から少しずつ消えていくようだった。

亮は見たことのない優しい表情で微笑むと私の目をまっすぐ見つめて言った。

「ずっと好きだった」

彼の潤んだ瞳を見つめ返しながら自分の鼓動が激しくなっていく。

体中が熱く脈を打つ。

「俺が営業二課に配属された時から、瑞希さんには本当に世話になったよな。どんなに仕事が辛くても瑞希さんの笑顔見たら一瞬で忘れることができた。今更だけど感謝してる」

亮は苦笑しながら前髪をかき上げた。

「この関係が壊れるのが怖くてずっと自分の気持ちを伝えられなかった。完璧しっかり瑞希さんに振られて、これで俺も何も思い残すことなくロンドンに行ける」

思わず彼の腕をぎゅっと掴んだ。

「二度と会えないみたいな言い方しないでよ。寂しいじゃんか」

胸の奥にあったものが込み上げて涙になる。

自分でもどうして泣いてるのかわからなかった。

もし目の前にいる人物が亮以外だったら、こんな気持ちになるだろうか?

亮だから?

「泣くなよ」

彼が眉をひそめ、私から視線を外す。

「どうしてか泣けてくるの。全部亮のせいだわ」

混乱した思いが、制御不能に口からついて溢れ出る。

「……ごめん」



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