白馬の王子と風の歌 〜幼馴染は天才騎手〜
1 + Side of Fuuka +



 祝日の馬事公苑は乗馬を楽しむひとたちで賑わいを見せていた。ゴールデンウィークがはじまる木曜日。すっかり花を散らせた桜は枝をぐんぐん伸ばし、若葉を青々と繁らせている。新緑特有の爽やかな空気を胸一杯に吸い込みながら、あたしはハルマの姿を探す。
 久々の休日とはいえ、彼は仕事柄、遠くに出ることが許されない。若干二十歳で新人賞を受賞後、数々のタイトルを制覇し、先月のインタビューでマスコミを騒がせ世の中に顔と名前が知れ渡ってしまった彼だが、本人はいたってけろりとしている。

「フーカ!」
「ごめんね、遅れて」
「ううん。ちょうどよかったよ。さっきまでファンサしてたから」

 くすくす笑いながらあたしの名前を呼ぶのは鈴宮(すずみや)遥馬(はるま)――ハルマだ。ふだんは帽子で隠れてしまう明るい茶髪が太陽のひかりで黄金色に煌めいていて、小柄なくせに存在感を見せつけている。
 あどけなさと愛嬌ある顔つきが印象的な彼は、透明なレンズのサングラスをしたままあたしを迎えてくれた。本日の彼はレースが休みだから服装も一般人を装っているが、Tシャツの腕から見える引き締まった筋肉や、軽やかな身のこなしを目の当たりにすると、彼が一流のアスリートであることは明らかだ。彼が自分の正体に気づいたファンとさりげなく交流していたとしてもなんらおかしなことはない。
 なんせ彼は天才騎手として二十二歳になったいまもなお中央競馬競技会で注目されている若手ジョッキーなのだから。
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