白馬の王子と風の歌 〜幼馴染は天才騎手〜
* * *
「落馬した」
順調にレースをこなし、着々と結果を出していくハルマに試練が襲い掛かったのは、あたしが大学二年になった春のことだった。
レース中に落馬事故で大怪我をしたのだ。幸い、生命にかかわるものではないとはいえ、彼の順風満帆な人生はここで一度、途切れることになる。
収容された病院に駆け付けたとき、彼は笑っていた。落馬なんて騎手人生ではよくあることだと病室のベッドで横になりながら歌うように口にしていたけれど、あたしは包帯でぐるぐるに巻かれた彼を見て、思わず泣いてしまった。
「フーカも、クイーンシュバルツを喪ったとき、こんな気持ちだったのかな」
「ハルマ……」
「下半身不随になるようなひどい怪我じゃないから大丈夫だよ。すぐに戻れる」
「また、馬に乗るの?」
「俺は騎手になるためにずっと生きてきたから。一度や二度の落馬、たいしたことじゃないさ」
あたしは怖くて馬に乗ることをやめてしまったけれど、ハルマはひどい怪我をしたからといって騎手としての自分を諦めることはできないんだと淡々と紡ぐ。そこにはアスリートとしての矜持が垣間見えた。