白馬の王子と風の歌 〜幼馴染は天才騎手〜
「で、でも。俺が車椅子生活を余儀なくされたら……フーカとの結婚は難しいよな」
「ばか」

 脊髄を損傷して下半身不随になったジョッキーのはなしを聞いたことがある。颯爽と馬に乗っていた元騎手がレース中の落馬事故で運悪く車椅子生活を送ることになったという業界ではよくある不幸な事故。
 プロだったから事故によって生じた保険金などで生活は賄えたというが、奥さんは介助に追われ、身も心も疲弊させながら、それでも愛する夫を支えつづけているのだという。
 表ではなかなか語られることのない、華やかな世界の裏側のことだ。

 ――ハルマは自分があたしの足枷になることを恐れている?

「言われなくても介助でもなんでもするわよ。だけどハルマはまだ、戦えるでしょう!?」
「ああ。戦うよ」
「ハルマが馬に乗れなくなっても、あたしは傍にいるよ。おじいちゃんになってもずっと」
「……フーカ」
「リハビリ、頑張って。あたしも勉強頑張るから」

 結婚、という言葉では伝えられなかったけれど、あたしは何があっても起こってもハルマの傍にいるよと、口にした。

 彼のこたえは、たどたどしいキスだった。
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