白馬の王子と風の歌 〜幼馴染は天才騎手〜

「クイーンシュバルツの青い瞳を見てると、自分がちっぽけだなって思えてくるんだ」

 フーカが自分のベストパートナーとしてクイーンシュバルツを選んだのもちょうどこの頃。地方競馬を引退し、種馬としての役割を終えた牝馬は、漆黒の毛並みが美しい馬だった。フーカをちいさな女主人と認め、ともに風になって馬場を駆けていた。
 彼女のしなやかな疾走に、俺は惹かれた。速いだけではない、彼女だから操ることのできる軽やかな風。名前のとおりに歌っているかのようだった。フーカが楽しそうに馬を走らせていると、俺も嬉しい。
 彼女がクイーンシュバルツに向ける熱のこもった眼差しを見ていると、自分が見つめられているわけでもないのに胸がときめいた。俺に張り合って馬を走らせていた彼女が、老いたパートナーを優先するようになったのを見て一抹の寂しさも感じた。あれはもしかしたら嫉妬だったのかもしれない。当時の俺は牝馬に嫉妬するなんて思いもしなかったけれど。

 馬を走らせながら風と歌うフーカはきれいだった。
 中学校に入ってからようやく自分の気持ちに気づいた俺は、ずっと前から彼女のことがすきだったのだと、痛感した。

 けれど――俺は初恋を封印した。
 落馬事故でクイーンシュバルツと死に別れた彼女は、乗馬を諦め、俺のことを避けはじめたから。
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