王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
「ふわぁ、すごかった……!」

 晴恵が声を出したのは、彼の工房を出てからだった。
 
「檜山さんがあんなふうに手がけた靴がお客様のもとに届くんだ」

 顧客は彼の靴が届くのをどれだけ楽しみにしていることだろう。

「檜山さん、少しはドキドキしながら試し履きを見守るのかな」


 それから晴恵は毎日通い続け、商店街の店主達とはすっかり顔なじみになってしまった。

 晴恵が代金を払った以上の惣菜を手渡され、ヨロヨロと檜山宅に辿手り着けば。

「遅かったな」

 待ちかねたように声がかかる。

「こんにちは」

 晴恵はただ、満開の花のような笑顔で応える。
 眩しそうに目を細める檜山に、彼女は気づいているのかいないのか。

「今日は特大コロッケを買ったんです。ソースたっぷり。キャベツの千切りと一緒にパンに挟むの好きなんですよね?」

 コンビニで買った割り箸で六枚切りの食パン二枚に手早く具材を挟んでいく。

「ん」

 手を差し出してくる檜山に、晴恵は人に慣れない獣を懐かせるのに成功した気分だ。
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