王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
 けなす訳でもなく、褒めた訳でもない。檜山はただ事実を告げただけなのに、なぜか涙がこみあげてきてしまう。

「足にいい靴をきちんと選べるアンタが、何故俺の靴欲しがる?」

 答えかけたとき。

「晴恵! ここが檜山さんの工房?」

 声のほうに視線を向ければ、やがてザクザクと草を踏み締めてフリッツが姿を現した。
 檜山の眉間に皺が寄る。

「晴恵、言ってくれれば僕も来たのに。お湯臭いです」
「みずくさいの間違いだろう。きちんと教えておけ」

 ……確かに。それはともかく。

「フリッツ、なんでここに?」

 この空間を誰にも邪魔されたくなかった。

「晴恵が『王室御用達の靴屋』のことを嗅ぎ回っていると聞きました」

「フリッツ!」

 その通りだが、あまりに言葉選びが悪い。
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