社長っ、このタクシーは譲れませんっ!



 その頃、律子は千景たちとは離れたテーブルで、やはり、タンシチューを坂巻と食べていた。

 隣のテーブルでボソボソ話している声が聞こえてくる。

「ねえ、あの子じゃない?
 社長と一緒にタクシーに乗ってた子」

「そう?
 タクシーの中、よく見えなかったんだけど」

「ほら、ビクビクしてる他の新入社員たちと違って。
 社長をまっすぐ見つめてるじゃない」

 なに気づかれてんのよっ、と思いながら、律子は隣のテーブルの女子たちと千景を窺っていた。

「そうね。

 ……いや、待って。

 あの子、変なとこ見つめてない?」
と聞こえてくる。

 なるほど。
 千景は何故か美しい社長の顔ではなく、スーツの胸ポケット辺りを見つめていた。


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