社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
 電車やバスで通うと宣言したくせに、実家の猫のせいで遅刻しかけて、道を猛ダッシュしてるところとか。

 平社員と必死にタクシーを争っているところとか。

 八十島さんに評価されずに、ビクビクしているところとか。

 マザコンという評判が広がるのを恐れて、やっぱり、ビクビクしてるところとか。

 最終面接で初めて会ったときの印象とはまるで違っていて、笑ってしまう。

 そんな千景をふうん、と見ていた武者小路は、
「あんたみたいな奴でも、ああいう普通のイケメンがいいのか」
と言い出す。

「……あんたみたいな奴でもってなんですか?」

「なんか変わってるから、趣味も変わってるのかと思ってた」

 なるほどなるほど、と呟きながら、紙コップを手に行こうとする。

「いやいや、待ってくださいっ」
と思わず、武者小路の襟首をつかんでいた。

 くえっ、と武者小路がらしくない声を上げ、死にかける。
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