社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
 そこで千景はおのれの靴を見下ろした。

 素敵な靴を履いていたら、素敵な場所に連れていってもらえるのではなかったのか。

 とんだ先輩のいる場所に連れていかれてしまったようだ、と思う。

 そのとき、
「ちょっと」
と坂巻の声がした。

「律子、なにやってんのよ」
と目の前にいる女を呼ぶ。

 彼女は坂巻と同期の真柳律子(まやなぎ りつこ)だと紹介された。

「その子、うちの新人なの、離してやって」

 そう言ってくれる坂巻を、千景は心の中で、姉御っ、と呼び、感謝する。

「そうなの?
 じゃあ、ちゃんと、しつけなさいよ」

「律子、なに絡んでるのかしらないけど。
 あんたはその子に恩があるはずよ」

「……恩?」
とうさんくさげに律子はこちらを見る。
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