社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
「武者小路に用があるんで」
と言いながらやって来たので、

「……なんの用だ」
と飲み会くらいでしか出会わない同期に向かい言ったが。

 案の定、
「いや、ない」
と言う。

 八十島は編纂室に入っていく千景を振り返り窺っていた。

 その端正だが、冷たい横顔を見ながら、武者小路は訊く。

「……なんで、嵐山に近づいた?
 なんか企んでんのか」

「新入社員相手になにを企むんだよ。
 前社長に社長を頼むと言われたからな。

 社長と仲良さげな嵐山がどんな人物か観察してるだけだ」

「なんだ、そんなことか。
 お前が社史編纂室をスパイに来たのかと思った」
とうっかり言って、

「……いや、社史編纂室のなにをスパイするんだ。
 調べてること全部、社史に載せるんだろ?」
とやはり言われる。

「お前、頭いいのに、莫迦だな」
と蔑むように言われ。

 おのれ、嵐山~。
 お前の心配をちょっぴりしたばっかりにっ、と武者小路は、自分を罵った八十島ではなく、千景を恨んだ。


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