社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
 今日は人気のタンシチューがメニューにある日なので、社食は満席。

 そして、千景の前は空いている。

「ここ、いいかな?」
と八十島がみんなに声をかけた。

「は、はいっ」
と返事しながら、新入社員たちは固まる。

 やばい。
 緊張するっ。

 早く食べ終わりたいっ、と全員の顔に書いてあった。

「こんな近くで社長見るの、面接のとき以来だよ~っ」
と同期の男性社員、吉峰(よしみね)が小声で言うのが聞こえてきた。

 八十島と将臣が千景の前に座る。

 真正面というのが、あまりないことだが。

 まあ、タクシーの中よりは距離があるかな、と千景は思った。

 テーブルに沈黙が流れる。

 ほっといても、八十島と将臣でしゃべっているだろうと思ったのだが。

 この二人、しゃべらない。

 沈黙に耐えきれない女、千景は口を開いた。
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