王女の選択
60メートル以上の岩山の上に建てられたセルドウィック城は美しさはないものの、要塞としての機能は十分に果たしていた。
30メートル幅の堀が岩山の周りをぐるっと囲い、それをつなぐ道が途中までは伸びているもののどんどんと細くなり突然途切れている。側塔の上は見張り兵が数人いて、彼らに合図を送らない限り、跳ね橋は降ろされることがない。
ジェラルドの軍馬にまたがりながら、カーラは側塔にいる見張り兵に目を凝らした。
敵の軍馬に乗った自分に気づくだろうか。
軍馬がゆっくりと堀の中ほどに近づく頃、ロイドとジェラルドの騎士二人も彼らに追いついた。
ロイドは馬上から側塔にいる衛兵に向かって合図を送った。
「跳ね橋を下ろせ。戦いは終わった。カーラ殿の帰還だ」
見張り兵が慌てたように跳ね橋を降ろすと、5人は城門の中へと進んで行った。
城門を潜り抜けるとカーラを迎えようと出て来た兵士たちが、敵の大公に抱きかかえられているカーラを見てぎょっとした様子だった。
立ち向かおうと剣をひこうとするが、後ろから抑え込んでいるのを見て動くに動けず、この状況をどう理解すべきか迷っているようだった。
カーラはそんな彼らを見て口角を少しあげ、大丈夫と唇を動かした。
ジェラルド大公がこのようなところで私の首を掻っ切るはずがない。
私の首に興味はないと言っていたのだから。
中庭を過ぎると、城門棟の門からカーラ様っっ!という声と共に女が一人石階段を駆け下りてきた。
「ステラ!」
ジェラルドを見上げると彼は何も言わずに馬を止め、支えていた腕を緩めたのを合図に、カーラは軍馬から滑り降りた。
彼女の姿が見えた瞬間、カーラは腕を大きく広げてステラに抱き着いた。
ステラはカーラの両肩を掴んでぐっと引き離すと、人差し指を突き上げながら捲し立てた。
「どんなに心配したか、お嬢様はわかっておいでですかっ!陛下からお嬢様を戦に向かわせたと聞いた時には、そのまま陛下を絞め殺してしまいたいと思いましたよ。なんと恐ろしいことをお嬢様にさせているのか。日々のお稽古とはわけが違うんですよっっ!お怪我はございませんでしたか?」
ステラは怒った次の瞬間には掴んでいた両肩をそっと撫で、いろいろな角度から傷がないか確認し、右手をそっとカーラの頬に添えて涙声でよくご無事でしたとささやいた。