空の表紙 −天上のエクレシア−
――――――『あの日』
ヨピは俯せるジークの上に積み重なる岩を
必死にどかしていた
背中に耳を当ててみる
『…うん。生きてる』
けれど音が弱っているのは確かだ。
早く手当てしなければならない
さっきの少年も運ばなければ。
しかし
意識を無くした人間を運ぶのは
至難の技だ
トロッコの到着音が
先程響いたのが聞えたから、
ひとまず閉じ込められるという
最悪の状況は免れた様だが
『おーい』と叫んでみる。
もう1度『おーい』
―おかしな事に気が付いた。
岩壁に反射して返って来る自分の声。
『オォォン…』と響くそれは、
まるで何かの獣の様だ
(…岩か何かに喉潰されたかな
痛くないけど。)
足元に
天井から伸びる青い鍾乳石から滴る水が
溜まっている
(ひとまずこれで
ジークの顔の血を拭おう
潰れた方は触れないけど
流れて無事な方の目に入ったら
こっちもダメになる
…借りるね。
ジークの腰から手拭いを引き抜くと
小さな水溜まりに膝を付く−
ヒタ…ヒタ…と足音が聞える
それはヨピの横に止まった
――見上げる
儀式用の衣装の様だ
洞窟に住居を構える民族には
よく見られる色素の薄い肌と髪
薄い灰色の
キツい切れ長の目が
こちらを見下ろした
だからヨピは聞いて見る
『ねえ。貴女にはさー。オレ、
なんに見える?』
キツい目はそのまま答えた。
「…言ったら泣くだろ。」
『…うん』
「じゃあ私も聞いていいかい?
…私の声はどんな風に聞える?」
『……お婆さん…』
「…言うなよ。泣いちゃうから」
『はは』
「…呼んでたのはお前だろ?…
……ああ…これは酷い怪我だ!」
民族衣装のしわがれた声は
その水溜まりの上に、
手に持っていた青い玉から出る光で
円を描く
魔法陣の様だ