神殺しのクロノスタシスⅣ
しかし、今回の夢は、どうにも様子がおかしかった。

妙にリアルで、試験用紙が目の前にある以外に、不思議なことが何も起きない。

牛も突撃してこないし、逆ギレする長老もいない。

ただただ、目の前の試験用紙があるだけ。

完全に、学生の試験シーンを再現している。

…何だ、この再現度の高さは…?

しかも、普段俺は夢の中で「これは夢だ」と気づくことは、ほとんどない。

大抵、目が覚めるまで、夢を夢だと気づかない。

そりゃ夢だって分かってりゃ、牛から逃げたりもしないし、アホみたいに腕を羽根にして飛ぼうともしないよ。

しかし今、俺は夢を夢だと気づいている。

おまけに、この再現度の高さ…。

きょろきょろと周囲を見渡してみても、おかしなところは何もない。

まるで、本当の学生みたいに、本当の試験を受けているようじゃないか。

更に。

「こら、そこ!何きょろきょろしてるんだ」

「えっ、あっ、済みません」

きょろきょろしていたところを、試験監督に叱られ。

俺は、思わず謝罪の言葉を口にした。

試験監督も、至って普通の、何処にでもいる先生、という感じだ。

おかしい。

これがもし夢なら、試験監督はピエロの格好とかして、どじょうすくいしてるくらいが、俺のいつもの夢のはず。

俺の夢が、こんなにまともな夢だなんて…有り得ない。

もしかして、これは夢じゃないのか?

俺は、そんな考えに至った。

ならばとばかりに、俺は頬をつねってみた。

この状況が夢か現実かを判断するには、一番古典的な方法だ。

…とはいえ俺、昔、中華まんの具になった夢を見たことがあるんだけど。

白くてふわふわの生地に包まれながら、「これはさすがに夢だ」と思って、思いっきり頬をつねってみたけど。

全然目覚めることが出来なくて、そのまま美味しくおっさんに食べられたぞ。

「やべー食われたーっ!」って思ってたら起きた。

嫌な目覚めだったよ。

さて、それはともかく。

今回も、これが夢ならワンチャン覚めると思って、頬をつねってみたものの。

「…」

頬がズキズキと痛むだけで、全然目覚めなかった。

むしろ、痛みのあまり更に頭がすっきりしてきた。

やはりこれは、夢にしてはあまりにリアル過ぎる。

…夢じゃないのか。もしかして、本当に。

これが夢じゃないとしたら、俺は今、一体どういう状況に置かれているんだ?
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