神殺しのクロノスタシスⅣ
…その後、その教室で授業が行われた。

授業の内容も、俺にはさっぱり分からないもののはずなのに。

俺の手は勝手にノートを取っていたし、先生に問題を当てられれば、口が勝手に正解を答えていた。

不思議とか、おかしいとかを通り越して、最早ホラー。

そんなホラー体験を終えると、俺はふらふらと足が導くままに教室を、そしてその建物を出ていた。

外はもう暗くて、夜になっていた。

振り向くと、その建物には『☓☓進学塾』という看板が立っていた。

あ、ここって塾だったんだ…と、今更知った。

試験受けて、授業まで受けてるのに。

成程、生徒達の着ている制服がバラバラだと思ったら、それはここが学校じゃなくて、塾だったからなんだな。

…って、どうでも良いんだよそんなことは。

それよりも、俺は今から、この不思議世界の謎を解かなくては。

何で俺が、こんなところにいるのかは分からないが…その原因を調べ、もといた世界に帰らなければならない。

油を売ってる暇はない。

さぁ、とりあえずこの周辺を調査して…と、歩き出した俺だったが。

「へ?あれ?」

俺の足は、俺の意志に反して、勝手に歩き始めていた。

ちょ、お前何処に行くの?

さっきの手と一緒だ。

自分で動かしているはずなのに、俺の行きたい場所とは、全然違う方向に進んでいる。

何とか抗おうとしてみたが、全く言うことを聞いてくれない。

まるで、自分の身体じゃないみたいだ。

それなのに、操られている気はしない。

どういうことなんた、マジで。本当に。

この先に何があるって言うんだ?

しかも、妙に足取りが軽いし。

何うきうきしながら、何処に向かおうとしてんだお前は。

すると。

辿り着いたのは、とあるマンションだった。

でけぇなおい。何階建てだこれ?

エントランスも馬鹿みたいに広くて、まるで何処ぞの高級ホテルのようだ。

きっと、金持ちの皆さんが住んでんだろうなぁ…と思っていたら。

なんと俺の足は、そのマンションに向かって歩き出すではないか。

ちょ、何やってんの俺?

不法侵入?

そもそも鍵持ってないから入れないだろう、と思ったが。

俺は、まるで定期入れを出して改札を通り抜けるように。

制服の胸ポケットから、カードキーを出して、エントランスを潜り抜けた。

VIPか?

そのまま、豪奢なエスカレーターに乗り込み、手が勝手にボタンを押す。

ま、マジで?大丈夫か?俺本当何やってんだ?

ハラハラしながら、目的の階に辿り着き。

ようやく足を止めたのは、その階の端っこにある一室。

そこでもカードキーを使って、俺はその部屋の扉を開けた。

全然見覚えはないはずなのに、ここが自分の家、という謎の確信があった。

もしそうじゃなかったら、マジで不法侵入だ。

お邪魔します、のはずなのだが、俺の口は勝手に「ただいま」と言っていた。

部屋に入ると、早速人が迎えてくれた。

パーティーにでも呼ばれたんですか?みたいな派手な格好をした、中年っぽい女性である。

胸には大粒のダイヤモンドが光っており、指にもキラキラ光る指輪を嵌め。

家の中だというのに、ダイヤモンドのピアスまでつけている。

…これからパーティーにでも行くんですか?

と、思わず聞いてしまいそうな出で立ちだったが。

「あぁ、お帰りなさい」

彼女は俺の姿を見て、そう言った。

お帰りと言ったってことは、やはりここが、俺の帰るべき家らしい。

全く見覚えないんだけどな。
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