神殺しのクロノスタシスⅣ
これだけでも、超ムカついてたけど。

更にムカついたのは、用意されていた夕食である。

無駄に豪華なテーブルの上に、ポツンと置いてあったのは。

…3割引のシールが貼られた、市販のクリームパン一個。以上。

何この夕食?

あのババァ、家の中だってのに、あんな派手な格好して、そこかしこに置いてある家具調度品も、どれもこれも一級品ばかりなのに。

晩飯が3割引クリームパンだけって。

クリームパンは悪くない。しかしせめて、割引シール貼ってない奴にしてくれよ。

新鮮なクリームパンであって欲しかった。

見てみろよ。消費期限今日じゃん。危ねーなおい。ギリセーフだけど。

しかも、夕飯これだけ?

見たところ俺、塾とか通ってるし、なんかよく分からんけど、育ち盛りの高校生とかじゃないの?

そんな育ち盛りの夕食が、クリームパン一個ってどうなの。

栄養どころか、カロリーも足りてないだろ。

それでも俺は、文句を言わず(言わなかったと言うより、言えなかった)。

黙って座って、黙々とクリームパンを食べ始めた。

すると。

そこに、見るからにふかふかの、高級ホテルにありそうなバスローブを身に着けた、中年のおっさんが現れた。

…誰?

と思ったが、俺の本能が、その人を自分の父親だと認識していた。

こいつ、俺の親父なの?

「あ、今帰ってきたのか?」

と、尋ねる親父。

そうなんですよ。風呂上がりのところ済みませんね。

早速なんですが、さっきあんたの奥さんが、息子にとんでもないことを言いましてね。

ちょっとその件で、苦情を申し立てたいとおもっ、

「しかし大変だなぁ、魔導適性のない人間は」

…。

風呂から上がって、惨めな夕食を摂っている息子を、何故か興味深そうに眺めながら。

第一声がそれ?

「一日に三回も食べなきゃならないんだろ?魔導適性のない人間は、本当に大変だよなぁ…。食費だけで、毎月いくら払ってるんだろうな」

…あ?

「こうして見ると、魔導適性のない人間は、人類として一歩遅れてるよな。外部から食べ物を摂取しないと、活動する為のエネルギーを得られないなんて…。その点魔導適性のある俺達魔導師は、進化した人類なんだろうな」

…あぁ?

「全く、うちは両親共に魔導師の家系だっていうのに、どうしてお前には魔導適性がないんだろうなぁ…。残念だったな。頭だけは良いのに…その分、余計残念だよ」

…はぁぁぁぁぁん!?

この薄らハゲジジィ、何抜かしてんださっきから。え?

「まぁ、魔導師じゃなくても、医者になるとかさ。比較的マシな職業もあるから。そうなってくれれば良いよ、お前は」

3割引シール、貴様のハゲ頭に貼り付けるぞこの野郎。

マジで、それくらいはやっても良いと思った。

実際、俺の手足が自由に動かせたら、やってた。

しかし出来なかった。

俺は身動きが取れず、かといって言い返すことも出来ず。

黙って頷いて、黙々とクリームパンを咀嚼するだけだった。

頭の中は火山が爆発していたんだけど。
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