神殺しのクロノスタシスⅣ
翌日。

目を覚ますと、昨日より頭がはっきりしていた。

まだワンチャン、悪い夢でも見てたのかなーと思っていたが。

やっぱり夢ではなさそうだ。

つーことは、これが俺の、今の現実なのだ。

…訳分からん現実だなぁー…。

俺は今、これ…どっかの誰かさんの生活を、追体験させられてる?と言うか。

どっかの誰かさんの代わりに、俺がその人の生活を送ってる、っていう状況なのかな。

人格は、このキュレム・エフェメラルという人間だけど。

身体は、もとの人が動かしているって言うか…そんな感じ。

ますます意味分からんくなってきた。

とはいえ、その日は休日だったので。

よし、これなら考える余裕がたくさんある、ついでに周辺の調査も、と思っていたのに。

何故か俺は、制服を着て、学生鞄の準備をしていた。

おい、お前何やってんの?

今日土曜日だぞ。もしかして、学校行こうとしてる?

平日の癖抜けてない感じ?校舎に着いてから、「あ、やばっ!今日休みだった!」っていう、笑うに笑えないコントをやるつもりか?

しかし。

身体の動くままに任せていると、本当に学校らしき場所に着いちゃって。

ほら言わんこっちゃない、となるどころか。

平日と同じように、生徒達がぞろぞろ登校していて。

あっ、成程。ここ土曜日も授業あるんだな、と納得。

英才教育かよ。

まぁ、あんないかにも頭良さそうな塾で、プライス価格198点を取るくらいだもんな。

学校も、それなりに頭の良いところなんだろうよ。

で、そこで受ける授業も、魔導師養成校卒業の俺には、相変わらずさっぱり分からなかった訳だけども。

そこは都合良く、この身体が覚えていてくれるお陰で。

先生に当てられても、見知らぬクラスメイトに話しかけられても、口が勝手に答えてくれる。

これだけは安心してるよ。

身体まで俺のもので、完全にもとの人(仮)と入れ替わっていたら。

最早、記憶喪失者みたいになってただろうからな。

会う人会う人、「誰お前?」って思ってるからな、俺。

それはともかく。

この学校、土曜日だっていうのに、六時間目どころか。

七時間目まで、びっしりと授業が入っていて。

生徒過労死不可避。

おまけに、どの科目でもどっさり課題を出される始末。

しかも俺、朝準備してるとき、塾のテキストまで持ってきてんの。

つまり放課後は、このまま昨日の塾に行くってことだろ?

どんな過密スケジュール?

勉強漬けにも程がある。

案外、そこらの企業よりブラックなのでは…?
 
逃げたくても、身体が言うことを聞かないんだから仕方がない。

俺が自由になるのは、思考だけだ。

俺には訳の分からない、古文学の授業が始まるや。

俺の頭の中は、早速余所事を考え始めていた。

ごめんな先生。でも世の中には、優先順位ってものがあってな。

俺はこのまま見知らぬ他人となって、クソみたいな両親のもと、勉強漬けの毎日を送るなんて、御免なんだよ。

一刻も早く、ここから帰る方法を見つけなくては。
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