神殺しのクロノスタシスⅣ
…数時間後。

俺と後輩は、二人で少女の部屋を訪ねていた。

後輩は、片手に数冊の本を持っていた。

病院の中にある図書室から、借りてきたのだそうだ。

自分で動き回ることが出来ない…どころか。

立ち上がり、歩くことも出来ない、少女の代わりに。

少女が好きなのは、様々な世界各地を冒険する、子供向けのファンタジー小説だった。

自分で歩くことの出来ない世界を、せめて本の中で、空想の中で体験したいのだろう。

自分自身は、狭い病室の中から出ることも出来ないのだから…。

「こんばんは。入るよ」

後輩が、少女の部屋をノックし、扉を開けた。

「!二人共、いらっしゃい!」

少女は、昼間と同じ、弾けるような笑顔で俺達を迎え入れた。

どうやら、体調は悪化していないようだ。

「具合はどうだ?夕食は?ちゃんと食べたか?」

「はい、ちゃんと食べました。元気ですよ」

俺の問いかけに、少女は元気いっぱい、とジェスチャーをしながら答えた。

とてもではないが、元気な身体には見えないんだがな。

相変わらず少女の腕には、点滴の針が刺さったままだ。

この針は、少女の腕から丸一日、抜けることはないのだろうか。

一日中彼女は、点滴の針を腕に刺したまま、過ごさなければならないのだろうか。

それは過酷だろうな。

でも、看護師である俺達が、患者の不安を煽るような言動をする訳にはいかなかった。

だから、あくまで俺も後輩も、笑顔で彼女に接する。

「良かった。はい、これ図書室から借りてきたよ」

後輩が、持って来た本を彼女に渡した。

「わぁ、ありがとうございます、小さいお兄さん」

少女は、本当に嬉しそうに本を受け取った。

「一気に読まないんだよ。少しずつ読むんだよ」

「はい、分かってます」

数冊の本の一気読み、たったそれだけのことさえ。

彼女の身体では、耐えられないことなのだ。

他人事ながら、この幼い少女を不憫だと思った。

すると。

「それじゃあ、小さいお兄さんに…はい、これお礼です」

少女は、一枚の画用紙を後輩の青年に手渡した。

「おっ、ありがとう。何かな?」

「えへへ。開いてみてください」

「じゃあ、見てみようか」

後輩は、画用紙を開いてみせた。
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