神殺しのクロノスタシスⅣ
…。
…お兄ちゃん?
それは、誰のことだ?
「お兄ちゃんには…描いてあげたいけど…」
「…けど?描いてあげたら良いのに。今度来たとき、一緒に渡そう」
「はい。だけど、お兄ちゃんの似顔絵は、何だか難しいんです」
と、少女は答えた。
そういえばこの子は、俺や後輩のことを、何故か「お兄さん」と呼んでいるよな。
子供は、自分の世話をしてくれる看護師のことを、そんな風に親しみを込めて呼ぶものなのだろうか。
それで、お兄ちゃんというのは?
俺達は「お兄さん」だから、お兄ちゃんとは違うのだろうか。
しかし、その疑問を口にする必要はなかった。
俺は覚えていないが、ちゃんとこの身体に宿った記憶が、俺に教えてくれた。
お兄ちゃんというのは、文字通り、この少女の実の兄のことだ。
少女にとっては、唯一の肉親でもある。
そう、少女には両親がいないのだ。
少女は俺達以上に、お兄ちゃん…実の兄のことを慕っているけれど。
社会人の兄はいつも仕事で忙しく、なかなか会いに来ることが出来ない。
でも、月に何度かの休日になったら、必ず少女に会いに来る。
たった二人の兄妹だから。
そして、そのときに俺は知った。
少女が俺達看護師を「お兄さん」と呼ぶのも、なかなか会えない本物の兄の代わり。
そもそも、数少ない男性看護師が少女の担当になっているのも、少女自身の希望なのだ。
本当の、大好きな兄には、なかなか会えないから。
せめて、自分の世話をしてくれる看護師は、自分の兄に似た、若い男性が良い、と。
「そう?難しいのか?」
「はい…。いつも顔が見られる訳じゃないから…」
と、少女は少し表情を曇らせた。
俺達看護師なら、毎日嫌でも顔を見る機会があるが。
本物の兄は、月に一、ニ回しか会いに来られないから、似顔絵を描くのも難しいのだろう。
それに、描けたとしても、次に兄が会いに来てくれるまでは、渡すことも出来ないから。
「だから、代わりにお手紙を書こうと思って…今、書いてる途中なんです」
少女は、そう答えた。
「そうか。それは良い考えだな」
と、俺は言った。
絵が難しいなら、文章にすれば良い。
手紙なら、いつでも送ることも出来るしな。
「でも…やっぱり、絵の方が良いでしょうか?お兄さん、どう思います?」
それは、俺に尋ねてるのか?
俺個人は、どちらでも、好きな方にすれば良いと思うが。
「両方書いてあげたら良いよ。お手紙も、似顔絵も」
俺の代わりに、小さいお兄さん、後輩が答えた。
安直だな。
「難しいなら、手伝ってあげるから。お手紙も似顔絵ももらったら、きっとお兄ちゃん、凄く喜んでくれるよ」
「本当?そうですか?」
「うん、きっと」
「お兄さんがそう言うなら…じゃあ、似顔絵も頑張って、描いてみます!」
少女は、弾けるような笑顔で答えた。
…儚い。
とても、儚い笑顔だった。
…お兄ちゃん?
それは、誰のことだ?
「お兄ちゃんには…描いてあげたいけど…」
「…けど?描いてあげたら良いのに。今度来たとき、一緒に渡そう」
「はい。だけど、お兄ちゃんの似顔絵は、何だか難しいんです」
と、少女は答えた。
そういえばこの子は、俺や後輩のことを、何故か「お兄さん」と呼んでいるよな。
子供は、自分の世話をしてくれる看護師のことを、そんな風に親しみを込めて呼ぶものなのだろうか。
それで、お兄ちゃんというのは?
俺達は「お兄さん」だから、お兄ちゃんとは違うのだろうか。
しかし、その疑問を口にする必要はなかった。
俺は覚えていないが、ちゃんとこの身体に宿った記憶が、俺に教えてくれた。
お兄ちゃんというのは、文字通り、この少女の実の兄のことだ。
少女にとっては、唯一の肉親でもある。
そう、少女には両親がいないのだ。
少女は俺達以上に、お兄ちゃん…実の兄のことを慕っているけれど。
社会人の兄はいつも仕事で忙しく、なかなか会いに来ることが出来ない。
でも、月に何度かの休日になったら、必ず少女に会いに来る。
たった二人の兄妹だから。
そして、そのときに俺は知った。
少女が俺達看護師を「お兄さん」と呼ぶのも、なかなか会えない本物の兄の代わり。
そもそも、数少ない男性看護師が少女の担当になっているのも、少女自身の希望なのだ。
本当の、大好きな兄には、なかなか会えないから。
せめて、自分の世話をしてくれる看護師は、自分の兄に似た、若い男性が良い、と。
「そう?難しいのか?」
「はい…。いつも顔が見られる訳じゃないから…」
と、少女は少し表情を曇らせた。
俺達看護師なら、毎日嫌でも顔を見る機会があるが。
本物の兄は、月に一、ニ回しか会いに来られないから、似顔絵を描くのも難しいのだろう。
それに、描けたとしても、次に兄が会いに来てくれるまでは、渡すことも出来ないから。
「だから、代わりにお手紙を書こうと思って…今、書いてる途中なんです」
少女は、そう答えた。
「そうか。それは良い考えだな」
と、俺は言った。
絵が難しいなら、文章にすれば良い。
手紙なら、いつでも送ることも出来るしな。
「でも…やっぱり、絵の方が良いでしょうか?お兄さん、どう思います?」
それは、俺に尋ねてるのか?
俺個人は、どちらでも、好きな方にすれば良いと思うが。
「両方書いてあげたら良いよ。お手紙も、似顔絵も」
俺の代わりに、小さいお兄さん、後輩が答えた。
安直だな。
「難しいなら、手伝ってあげるから。お手紙も似顔絵ももらったら、きっとお兄ちゃん、凄く喜んでくれるよ」
「本当?そうですか?」
「うん、きっと」
「お兄さんがそう言うなら…じゃあ、似顔絵も頑張って、描いてみます!」
少女は、弾けるような笑顔で答えた。
…儚い。
とても、儚い笑顔だった。